対談記事:サステナビリティを通じたビジネスの変革

サステナビリティを通じたビジネスの変革

~サプライチェーンの中核を担うDNPの取り組みと使命~

サムネイル

写真左:大日本印刷株式会社(以下、DNP)サステナビリティ推進委員会事務局 局長 鈴木 由香氏
写真右:一般社団法人サステナブル経営推進機構(以下、SuMPO) 代表理事 壁谷 武久

AI革命に始まり、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、企業活動は地球環境への影響を切り離して考えることは出来ません。
今回は、サプライチェーンの中核に位置し、多岐に渡るステークホルダーと関わりを持つ大日本印刷株式会社(以下、DNP)様に、同社のサステナビリティへの取り組みや組織文化の醸成について話を伺いました。

 

1.環境問題への関心とビジネスへの影響

サステナビリティを自分ゴトに捉え、ビジネスに生かす

壁谷代表:鈴木さんは、環境系部門の所属が長いかと思いますが、元々関心があったのですか。

鈴木局長:17歳の頃、大学選びに迷っていた時、COP3「京都議定書」の報道を見たことがきっかけで地球環境問題に関心を持ちました。大学では地質学を専攻し、数億年前の環境復元などを行っていました。卒業後は、全く異なる分野の企業ではありますが、幅広い事業を展開しているDNPに入社し、製品開発や生産技術に携わっていました。その後、社会全体で「環境」への意識が向き始め、学生時代に地球環境学を学んでいたこともあり、現在の仕事に至ります。
今では、ビジネスにおける環境への取り組みの重要性を認識し、サステナビリティ推進の一翼を担う責任を感じています。壁谷さんは、どのようなきっかけでSuMPOを立ち上げられたのですか。

壁谷代表:地球環境問題に関して、当初は自身とは関係のないものだと考えていました。しかし、省庁での経験を経て、公害問題だけではない鉱物資源などの新しい問題が次々と発生する中で、既存の延長線上で考える「フォアキャスティング」の限界を感じました。新しい問題とは、制約要件を受け入れて新しい経済の仕組みをつくる必要性と、「サステナビリティ」の重要性であると感じていた時に、現理事長の石田 秀輝と出会いました。サステナブル経営推進機構と社名に「サステナブル」と名付けたのは、設立当時2019年では一歩先を行く考え方だったと自負しています。この数年で、「サステナビリティ」という言葉は、広く浸透した印象がありますが、その中でもDNP様は、業界に先駆けて「サステナビリティ」へ取り組んでこられた印象があります。


DNP サステナビリティ推進委員会事務局 局長 鈴木 由香氏

大日本印刷株式会社(DNP)サステナビリティ推進委員会事務局 
局長 鈴木 由香氏

大学・・・ 地質学専攻、石灰岩が専門
2005年 建築内装材部門 入社
岡山工場で製品開発⇒生産技術を担当
2012年 本社 環境部門に異動
生物多様性保全、外部評価対応を担当
2018年 「ビジネス企画推進グループ」 発足
2020年 部門名「サステナビリティ推進部」に改称
2023年 サステナビリティ推進委員会事務局を本務に

 

2.DNP様のサステナビリティへの取り組み

ウェルビーイングを体現するDNP様の「わくわく」とは

鈴木局長:DNPは、企業理念に「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」ことを掲げ、長期を見据えて、自らがより良い未来をつくり出すための事業活動を展開しています。人々の身近に常に“あたりまえ”に存在する価値を提供したいという思いを「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントに込めています。また、こうした健全な社会や経済、快適で心豊かな人々の暮らしは、持続可能な地球の上でこそ成り立つと考えています。
特に、DNPが強みとする印刷業・情報産業を担ってきた立場からすると、「ウェルビーイング」とは、社会課題を解決し、人々の期待に応える新しい価値を提供することであり、自社の製品・サービスを通じ、心豊かに暮らせる社会をめざすことだと考えています。

壁谷代表:北島社長のサステナビリティメッセージに「より良い未来」と記載されていたのが印象的です。そして、DNP様が目指す「より良い未来」の最上位に「わくわく」と記載されていたのが素敵だなと感じました。「わくわく」は、ウェルビーイングの考え方の表れだったのですね。

鈴木局長:実は、「わくわく」と記載された時に社員からは驚きの声がありました(笑)。歴史が長く、どちらかというと保守的な印象があったから、驚いたのだと思います。単に良い未来ではなく、「より良い未来」としているのは、情報産業に携わってきた私たちが安全・安心という価値に加えて「より楽しく」「より素敵に」という考え、つまり「心豊かに」を重視している表れです。

壁谷代表:SuMPOの理念が「心豊かな未来をSuMPOの業で創ります」のため、DNP様の考え方に共感します。自分たちの次の社会、さらに次の社会に不安を感じる若い世代が多い中で、まずは経営者が変わることが大切です。DNP様がサステナブル経営の先頭に立たれているというのは非常に頼もしいです。

鈴木局長:現社長の北島に代わった2018年から、「第三の創業」の実現に向けた取り組みを加速しています。出版から始まり、印刷業の拡大、社会課題が複雑化する中で、自社の強みだけでなくパートナー企業と強みを掛け合わせることで新たな価値を提供し、人々の期待に応えるより良い世界にしていくというのが社長のメッセージです。社内社外問わず、「人」に重きを置いているのが特徴だと思います。

 

3.社内の意識改革と組織文化の醸成

サステナビリティは全社で取り組む課題!大きく舵を切った社内体制

壁谷代表:社長の想いを社内の一人一人に浸透するにあたっては、苦労も大きかったのではないですか。

鈴木局長:大企業ゆえの悩みはありました。これまでは、環境のことは環境部がやるもの、SDGsへの対応は本社のあの部署がやるものといった形で、縦割り感が強くありました。
しかし、現社長の北島に体制が変更して間もなく、サステナビリティは一課題ではなく、全社で対応するべきものとして、代表取締役を委員長とするサステナビリティ推進委員会を2022年に再編しました。財務・非財務すべてを含んだ「サステナビリティ」を社長の直轄で管理することで、一気に社内の空気感が変わりました。社長が委員長を担っているということも、社内の意識改革に大きかったと感じます。

壁谷代表:2022年はCO2の議論が中心となる中、歴史のある会社で「サステナビリティ」にいち早く注目したことはすごいことですよね。印刷業界となると紙の問題。日本で公害対策に重点が置かれた当時、紙パルプ産業では向かい風の中で環境対策に取り組む必要がありました。

鈴木局長:同時に、社内外からの問い合わせや相談に対しても、部門横断で答えを探していく雰囲気が広がったと感じています。委員会の再編前も、環境や人権を専門とする部門があり、社内の土台作りの起点となったと思います。社内外から多くの問い合わせを頂く中で、部署単独で考えるのではなく、他部署の強みを生かしながら横軸で考えていこうという意識がありました。委員会の再編により、部署を超えたメンバー間の交流、社内の仲間づくりの雰囲気がさらに社内へ広がっていきました。

壁谷代表:社内の文化が少しずつ変化する時に、社長のイニシアティブで全社メンバーが一気にタテ・ヨコ・ナナメで繋がったということですね。

鈴木局長:特にカーボンニュートラルについては、カーボンニュートラル推進チームという本社横軸の組織が出来ており、「全社で取り組む!」という文化が醸成されています。横連携の強化は課題もありますが、より良い連携方法を日々、模索中です。


SuMPO 代表理事 壁谷 武久

一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)
代表理事 壁谷 武久

1959年生まれ/愛知県出身、元経済産業省(中部経済産業局、製造産業局)
2007年4月~2019年9月(一社)産業環境管理協会へ転籍 
LCA事業/地域・産業支援事業部門責任者
2019年 6月(一社)サステナブル経営推進機構設立(代表理事/専務理事)
10月 開所(前職からの事業譲渡により事業開始)
2023年10月 ㈱LCAエキスパートセンター設立(代表取締役社長)

 

4.サプライチェーンの中核を担う企業としての責任

人と社会をつなぐDNPの使命

壁谷代表:全社でカーボンニュートラルへ取り組む文化を醸成する過程で、社内から保守的な意見など出ましたか。

鈴木局長:もちろんありました(笑)
ビジネスの拡大はCO2排出量の増加にもつながるため、経済的な合理性とのバランスを考慮する必要がありました。同時に、社会やサプライチェーン全体での動向もあり、これまで取引先の選定基準がコストや品質に焦点を当てていたのに対し、環境情報の開示が基準の一つとなってきています。社会全体で、パートナー企業と共にサプライチェーン全体の環境負荷を低減する方法を模索し、持続可能な取り組みを継続していくことが求められているというのは、一企業が変革する上で大きな影響を与えました。

壁谷代表:制約要件のある今の経済システムでは、すべての人が利益を得る仕組みの構築が難しい中、取引先の選定基準の見直しや、企業のトップ同士の意思疎通を図る等、サプライチェーン全体の意識を高めることが大切ですよね。
サプライチェーンの上流と下流をつなぐために、DNP様が工夫されている点はありますか。

鈴木局長:サプライチェーンの中ほどに位置するDNPは、事業領域が多角化するなかで、海外の動きを含め柔軟な対応が求められます。「カーボンフットプリント」という点だけで見るのではなく、様々な社会課題を俯瞰し、経済成長との両立を考えながら、社内のマネジメントを強化し、購買や研究開発部門等が一体となって取り組みを進めています。

壁谷代表:DNP様は「SuMPO/第三者認証型カーボンフットプリント包括算定制度」認証第一号を取得されました。社内でのカーボンフットプリントへの意識は、以前から高かったのでしょうか。

鈴木局長:特に容器包装の担当部署は、当時から環境は切っても切れないものという考えを根強く持っていました。LCAの評価も他部署に先駆けて行っており、製品を定量的に評価する必要性と重要性を感じていたメンバーです。

壁谷代表:近年、社会全体としてのLCA算定の要求が高まる中、DNP様のアプローチは早いです。カーボンフットプリントは、投資家に見せなければいけない、欧州の規制に対応しなければいけないなど受け身になりがちですが、本来、人と社会をつなぐメッセージになるものです。自社製品やサービスがお客様の未来をより良くするものと語るために、カーボンフットプリントを活用したコミュニケーションを取っていただきたいです。

鈴木局長:「SuMPO/第三者認証型カーボンフットプリント包括算定制度」認証第一号となり、より強く感じていることが、数字にして満足するのではなく、関係部署がどう改善していくかにつなげることが大切ということです。実際に、バージン材よりもリサイクル材の環境負荷が大きい場合は、どうやったら環境負荷を低減できるのか、その方法を皆で模索しています。
特に「サステナビリティ」は、この数年で担当者でも追い付かないぐらい変化していると感じます。つまり、それだけ課題が深刻であるということです。環境負荷を低減した製品やサービスの普及を、自社やパートナー企業の強みを掛け合わせ、議論しながら生み出していきたいです。そういった過程が、よりよい未来、わくわくする社会につながると信じています。

壁谷代表:出版印刷を通じて人々に文化と知識を伝えていくという創業の想いを大切に、これからも人と社会をつなぎ、「より良い未来」を形作ってください。
本日は、ありがとうございました。

人物