カーボンニュートラル時代の共通言語、定量型環境ラベル「カーボンフットプリント」
カーボンニュートラル事業部 戸川孝則
2020年10月に菅首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言して以来、昨今では企業の温暖化対策への新しい取り組みが毎日のように発信されています。
現在、日本では年間で約12億トンを超える温室効果ガスを排出しています。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス(以下、「カーボン」という)の排出量を極限まで削減し、残る排出量から、森林などによる吸収量を差し引き、実質ゼロにするという意味ですので、2050年までに温室効果ガスの増えない状態である脱炭素社会を目指したカーボンニュートラルの時代に向けた取り組みが、日本全体で始まっているのです。
そんな中、カーボンニュートラル時代の「共通言語」として、ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いた定量型環境ラベルの「カーボンフットプリント」が注目を集めています。そのきっかけの一つが、2021年3月の日本自動車工業会豊田章男会長の記者会見です。会見の中で豊田会長は、「モノを作る、作ったモノを運ぶ、そして運んだモノを使う、リサイクルしながら最後は廃棄する。その流れの中で発生するカーボンを2050年までにゼロにしようという考え方が、ライフサイクルアセスメント(LCA)をベースにしたカーボンニュートラルだと理解しています。」と発言されました。これにより「カーボンニュートラルはライフサイクル全体で考える」ことが広く一般的になり、製品やサービスが環境に与える影響の情報を開示する「カーボンフットプリント」が注目されているのです。
定量型環境ラベルとは、信頼性・透明性を確保した算定方法に基づく製品のライフサイクル全体にわたる環境情報を情報開示(ラベル)ラベルの形で表示することで、ISO(国際標準化機構)による国際規格として制定されています。日本では私たち一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営する「エコリーフ環境ラベルプログラム」が、唯一ISO準拠のプログラムです。「エコリーフ環境ラベルプログラム」には2つのカテゴリがあり、ISO 14025準拠の「エコリーフ」は気候変動・酸性化・富栄養化・資源消費など複数の影響領域を、ISO/TS 14067準拠の「カーボンフットプリント」は気候変動のみを対象とした影響領域として運用されています。
日本の定量型環境ラベルの歴史は古く、「エコリーフ」は1998年に通商産業省 (当時) からの「環境調和型経済社会における環境ラベルのあり方検討会」提言を基に8工業会協力のもと設けられた「新たな環境ラベル協議会」で開発されました。一方、「カーボンフットプリント」は、京都議定書の盛り上がりを受け2009~2011年度に経済産業省・環境省・国土交通省・農林水産省の4省庁により「カーボンフットプリント制度試行事業」が実施され、その成果を2012年4月より、国から継承して、「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」が創設され、現在の運営はSuMPOが行っています。
(SuMPO/サステナブル経営基礎講座 第4回より:https://youtu.be/dZrcNt_WTP8)
サプライチェーンでの供給者側と共に消費者など需要者側が環境負荷を意識し、より環境負荷の低い製品の開発、購買を促すことにより、持続可能な社会の構築につながるものとして生まれた定量型環境ラベルですが、これまで普及・利用拡大に際しては以下のような課題がありました。
(1)我が国環境ラベルを普及する上での政策面、事業面での目的やターゲットが明確でなく、戦略がない。国内、海外などどこで、どのような環境情報を発信することが効果的かを明確にする必要がある。
(2)環境ラベルは、企業におけるボランタリーな取組であり、強制力がないことから社会的、経済的な環境変化に大きく左右される傾向にある。
(3)環境経営ツールとして、ISOの規格に基づき制度化され事業者において取組まれているものの企業経営上の便益が見えづらく、コスト負担等についての合意が得にくい。
(4)数値の見える化だけでは製品そのものを環境配慮製品と定義付けることが困難であり、製品購買者への訴求力に乏しい。
※2013年度経済産業省「我が国における定量型環境ラベルの在り方に関する調査事業」より抜粋
では、カーボンニュートラル時代という脱炭素社会を意識した企業経営ニーズが高まる中、なぜ今「カーボンフットプリント」がクローズアップされているのでしょうか。
SuMPOでは、「カーボンの見える化ニーズに応える環境ラベルへの社会ニーズ」の把握のため、2021年5月27日にSuMPO/環境ラベル公開セミナーをオンラインにて開催し、エコリーフ環境ラベルプログラムの概要や実際にラベルを取得している事業者の活用事例を紹介するとともに、カーボンニュートラル社会における環境ラベルの在り方や活用方法について議論する場を設けました。この反響は私たちの予想以上に大きく、ライブ配信申込者は400名を超え、YouTubeにて公開したアーカイブは1週間で1171名(8/31現在、1959名)の皆様に視聴いただくコンテンツとなりました。
当日、公開セミナーの参加者を対象に行ったアンケートでは、カーボンの見える化ニーズに応える環境ラベルへの社会ニーズとして、以下の結果となりました。
l セミナー参加者の約80%がLCAをベースとしたカーボンの見える化の必要性を認識
l セミナー参加者の約60%が製品・サービスのカーボンの見える化への取組に関心を持っている
l セミナー参加者の約66%がLCA手法による環境情報の定量的算定結果の開示ツールとして、環境ラベル活用に興味がある
l セミナー参加者の半数以上の方が、カーボンニュートラルに向けた指標として環境ラベルを認識し、環境ラベル取得への関心は高まっている
カーボンニュートラル宣言を受け、事業者側の脱炭素化に向けた取組が加速し、脱炭素化に向けた取組の第一歩としてLCAをベースとしたカーボンの見える化に着手する流れが起きていること、また、「カーボンの見える化」コミュニケーションによる脱炭素社会への移行の促進に向けて、「供給側の脱炭素製品・サービスの開発の促進」、「需要者側からのマーケットの脱炭素化の牽引」など、多くの参加者の方から、カーボンニュートラル時代への社会変化の中、脱炭素社会における新しいビジネスモデルの構築に「カーボンフットプリント」への期待が高まっていることが社会ニーズとしてわかりました。
(SuMPO/環境ラベル公開セミナー(5/27)参加者アンケートより https://youtu.be/jeRamhaMLiA)
昨年10月の2050年カーボンニュートラルの宣言以来、環境ラベルへの社会的ニーズは大きく変化しています。現在は、脱炭素社会の実現というカーボンの総排出量を自社だけではなく、ライフサイクル全体で把握し、サプライチェーンを構成するすべての事業主体において把握し、その削減のため相互に協調していくことが重要となっています。このため、単に企業としての社会貢献というスタンスでなく、企業経営上の長期的リスクとして経営統合し、中長期的なビジョンで削減目標をコミットメントし、その進捗報告としてのカーボン情報の開示が始まりつつあります。
実際に、今年の4月以降、SuMPOへの環境ラベル取得への問合せ急増しており、環境ラベルの入門セミナーの参加者は、この4月から7月の参加者数が過去2年(2019、2020年度)の合計の2倍以上となっています。とりわけ、製品・サービス単位での要求が急激に高まっており、企業間及び消費者等エンドユーザーとのコミュニケーションとしてその普及が待たれる状態となっていると推測されます。
(SuMPO/ステークホルダーミーティング資料より抜粋)
日本政府は炭素税や排出量取引などカーボンカーボンに価格をつけるカーボンプライシングの導入を、環境省と経産省がそれぞれ有識者会議を設けて検討しています。これにより、これまで外部経済として扱われてきた「カーボン」がコストの一部として加わることから、「カーボンマネジメント」の流れが一気に進展することが予測されます。
カーボンニュートラルの実現のためには、カーボンニュートラルに資する商品・サービスが市場で選択され評価されることが重要となります。 消費者・企業等の需要家の行動変容を促進するためには、商品・サービスを選択する際に、商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるカーボンを“見える化”することが重要となるので、今後、ますます、定量型環境ラベルの「カーボンフットプリント」が、カーボンニュートラル時代の「共通言語」として活用が広がっていくのではないでしょうか。
私たちSuMPOは、ISOの国際規格に基づくLCA手法の普及と共に、同じくISO規格に準拠した「エコリーフ環境ラベル」の国内唯一のプログラムホルダーです。その実績と共に、公平・公正な運用機関として社会からの要請に応えるべく、プログラム全体の魅力をさらに高め、カーボンニュートラルの早期実現を目指します。